プロジェクトS 第14章
瀬戸田映画祭に行く      作 新藤 兼人
 十一月三日

 瀬戸内海 生口島の瀬戸田に行く。殿山泰司の映画祭に招かれたのだ。
会場に「殿山泰司映画祭」 大書きしてあるのでびっくりした。
ながいながいつきあいだが 殿やまさんとか 君とか呼んだことはない。
タイちゃんと呼んできた。だれもかれも タイちゃんだった。

 会場は満席で、ほっとした。小さな島なのによく集めたものだ。
タイちゃんも よう来てくれたのうと満足しとるじゃろう。

 上映の映画は、みなわたしの作品で 「裸の島」 「かげろう」 「三文役者」である。
「三文役者」は、タイちゃんの伝記映画である。また 「裸の島」は、タイちゃんの主演映画である。
生涯脇役でとおした タイちゃんの たった一本の主演映画である。

 なぜ瀬戸田で映画祭というと、タイちゃんの父上が、瀬戸田の生まれである。
それでタイちゃんは、瀬戸田出身ということになっている。「三文役者」で瀬戸田にロケしたが
殿山家は、ミカン畑のなかにあって、泰然と構えていた。

 わたしは、四十七本映画を作っているが、タイちゃんは、ほとんどの作品に出演している。
それでもわかるように わたしとタイちゃんは、固く結ばれた仲であった

 タイちゃんは、多くの監督に愛されて、数えきれないほどの作品に出演している。
根っからの自由人で 自由自在に生きていた。日本映画は 惜しい人を失ったものである。

 島で出来あがった映画祭が 盛況なのでうれしかった。映画がこのようにして観られるのはうれしい。
この瀬戸田映画祭が 波紋をひろげることを期待したい。





追記 (御畑)
 11月11日 新藤次郎社長よりメールが届きました。

 御畑さま
 ご無沙汰をしております。新藤次郎です。
堀本逸子さんよりの 依頼で新藤兼人の文を寄稿します。
先日、瀬戸田に伺った際の記事です。
 来年は、広島で仕事をするよていですのでお会いすることもある
と思います。