「地震雲」なんかありません!



1.はじめに

 2011年3月11日、東日本を襲った大きな地震がありました。多くの尊い命が奪われ、また生活基盤を破壊してしまいました。
 また、1995年1月17日には阪神淡路大震災、2000年10月6日に鳥取県西部地震、2001年3月24日に芸予地震、2003年9月26日に十勝沖地震、2004年10月23日に新潟県中越地震、2007年3月25日に能登半島地震、同年7月16日に新潟県中越沖地震、2008年6月14日に岩手・宮城内陸地震があり中規模の被害を伴わなかった地震は、毎日どこかで起こっていると言ってよいぐらいです。このように、最近、大きな地震が続発しているように思います。また、近い将来、南海地震や東南海地震、東海地震が起きる可能性が高くなっています。さらに、今後4年の間に、都心付近でマグニチュード7クラスの地震が起きる確率が70%になるという、ショッキングな情報も公開されました。それで、「地震雲」なるものが注目されるようになったのです。


2.どんな雲が「地震雲」にされるのか?

 テレビ番組で、「地震雲」の特集をやっていることがあります。また、インターネットのウェブサイトにも、「地震雲」が掲載されています。これらを見ていて、そのほとんどが、ごくふつうに見られる雲だとわかりました。その多くは、飛行機雲、波状雲、ロール雲(レンズ雲やつるし雲も同様)です。実際に私が撮影した雲を掲載し、説明を加えていきます。

@波状雲
 巻雲、巻層雲、巻積雲などの上層雲、高積雲や高層雲などの中層雲が上空の大気の流れが波打っていることによって、雲も、波打ったようになります。

 

   左:ヘビのような波状雲(2009年3月1日撮影)
    中:餃子のような波状雲(2010年10月27日撮影)
     右:黄昏時の波状雲(2009年1月8日撮影)

 
とくに、右の写真のような波状雲は不気味さを感じるようです。これは、高層雲か層積雲だと思われますが、夕日は雲の向こうにあり、雲は逆光になって黒っぽく写っています。実際に見たときには、雲が大きくうねっているように見えました。上空の大気が波打って流れていて、上昇気流のときに雲が発生し、下降気流になると雲は薄くなったり消滅してしまいます。その繰り返しによって発生したのが、波状雲なのです。

A飛行機雲
 私が住んでいる所は、広島空港に比較的近く、また旅客機の航路上空にもなっているようで、毎日のように飛行機雲を見ることができます。飛行機雲は、ジェット機の排出ガスが、上空の冷たい空気に触れて、水分が凝結して発生します。飛行機雲は、旅客機が通った後にできますが、すぐに消えてしまうときと、いつまでも残っていることがあります。上空の湿度が高いほど、飛行機雲はいつまでも残り続けます。そして、その幅が広がったり、大気の流れによって曲がったりして、奇妙な形の雲になるのです。
 飛行機は、高度1万メートルぐらいの所を飛行しているので、上空に飛行機がいても、気付くことは少ないのです。また、1万メートルも離れていると、飛行機の爆音が地上に到達するまでに30秒もかかってしまいます。だから、爆音が真上から届いたときには、飛行機そのもは頭上よりはるか向こうまで行っています。残された、飛行機雲を見て、「おやっ?」と思ってしまうのでしょう。

  
 交差した飛行機雲(2009年3月30日撮影)  細い飛行機雲(?)(2009年2月16日撮影)

 左の写真は、井桁のように交差しています。飛行機が通過してかなり時間が経っているので、太く曲がっています。下の写真は、飛行機雲だと思われますが、ふつうの雲でも、このように紐状になることがあります。また、「地震雲」とされるのは、飛行機雲が地平線に対して垂直方向に立ち上がったように見えるものだそうです。しかし、これは見る位置によって、(観測者の正面方向に飛行機雲が発生しているから)そのように見えているのです。立ち上がったように見えたり、真横に見えたり、あるいは斜めに見えていたとしても、何ら不思議なことではありません。

Bレンズ雲
 私の住んでいる尾三地域には高い山がないので、あまり見ることができません。富士山や高い山脈がある地域では、よく見られる雲です。レンズ雲は、層積雲などが、上空の強い風で、レンズ状になるものです。富士山では、山頂に暈雲、風下につるし雲ができますが、それらは、大気が山の上部や後方で上下に蛇行するため、発生します。また、この雲は、一定の場所に留まる傾向があります。しかし、”留まる”と言っても、つねに同じ所で雲が発生しているだけで、雲そのものをよく観察すると、ススキの穂先がたなびくかのように、つねに風上から風下に向かって動いています。

 
 レンズ雲(撮影日は不明。この日は地上でも強風が吹いていました。)

C色付く雲
 色付く雲には、いろいろなものがあります。「日暈」がいちばんよく見られるものですが、それ以外でも、「彩雲」や「環天頂アーク」、「環水平アーク」も、ちょくちょく現れています。しかし、これらの現象に気付くことは以外に少ないのです。いつも、空を見上げているわけではありませんから・・・。だから、たまたま、それを見たときに、「珍しい雲だ!」と驚いてしまうのです。それだけなら良いのですが、「不吉な雲」・・・「地震雲」と発展してしまいがちです。でも、彩雲は、「五色雲」とか「慶雲」とも呼ばれ、吉兆の雲とされいているのですよ。また、環水平アークは、太陽高度が58度以上でなければ見ることができません。したがって、この写真の撮影期日にあるように、夏場にしか見ることができない雲なのです。

 
  左:彩雲(2009年2月16日撮影)    中:環天頂アーク(2009年10月30日撮影)  右:環水平アーク(2009年6月2日撮影)

D太陽柱
 「サンピラー」とも呼ばれていて、気温が低い所で発生します。太陽の上下に光条が伸びています。「地震雲」にされるのは、この写真の太陽柱より、光条がさらに上下に伸びています。「気温が低い」と言っても、それは雲が発生している上空のことなので、この写真のように5月でも現れることがあります。

  太陽柱(2011年5月18日撮影)

E放射状に見える雲
 放射状に見える雲も、「地震雲」にされてしまうようです。巻雲などの雲は、見る位置によって、放射状に見えます。巻雲は、同じ方向に向かって刷毛で描いたようになることがあります。しかし、これも、見る位置によって放射状に見えているのです。つまり、観測者が真正面に見ている場合は、遠近効果によって、向こうに行くほどすぼんで見え、手前に来るほど広がって見えます。だから、結果として放射状に見えます。広角系のレンズで線路や碁盤の目状の街並み撮影してみると、その理屈が理解できると思いますよ。下の写真は、巻雲が放射状に見えている場合ですが、波状雲だともっと、それがよくわかります。

 

F空を分断するような雲
 空を半分に分けるような雲は時々現れます。それも、直線で仕切ったように、一方は白い雲、残りの方は、真っ青な青空というものです。

 

GCG処理されている雲?
 ネット上に掲載されている雲を見ると、「こんな雲ほんとうにあるの?」と、思いたくなるような雲もあります。たとえば、三重四重になった笠雲、乳房のように大きく膨らんだ雲などです。私が撮影した雲ではないのでここに掲載したり、リンクを張ることはいたしませんが、コンピュータで画像処理したのではないかと思う雲も少なくありません。CG技術が飛躍的な進歩を遂げ、また、だれでも簡単にできるようになってきているので、そういう”人工的な雲”も、掲載されていて不思議ではなくなってきました。もちろん、撮影者やそのウェブページの管理者に聞いてみなければ、一概にCG処理した”人工的な雲”だと断定することはできませんが・・・。

 以上のように、「地震雲」として、画像がアップされている雲のほとんどが、このような飛行機雲や「波状雲」とよばれる波打った雲です。毎日、空を眺めていると、何ら変哲もない雲なのですが、たまにしか見ない人たちにとっては、「不思議な雲・変わった雲=地震雲」になってしまうようです。もし、これらの雲が「地震雲」だったら、毎日のように地震が起きているということになります。日本地震学会や気象庁の専門家も、その因果関係を否定しています。みなさんも、雲をしっかりと見ましょう。雲の種類や気象状態がわかるようになると、「地震雲」なんかないということが、理解できるようになることでしょう。CとDでは、珍しい気象光学現象(大気光象)も集めてみました。意識して空を見上げていないと、つい見逃してしまいます。環天頂アークや環水平アークは、時々見られますが、初めて見た人は驚くようで、気象台や新聞社に問い合わせが多く来るということです。雲は、七変化。実に不思議な形のものがあります。それも、二度と同じ形の雲は現れないのです。
 これらの雲は、ほんとうに「地震雲」でしょうか・・・?
 いいえ、違います。毎日のように観察していれば、ふつうに見ることができる雲です。


3.「地震雲」についての見解(まとめにかえて)

 私は、「地震雲」なるものは存在しないと思っています。そのわけについて書いていきます。

@地震と気象現象の関連性は低い
 地震が発生するときに、地層が歪んで電磁波が発生すると言われています。その電磁波が、上空数千メートルから1万メートルにある雲にまで影響を及ぼすのでしょうか? まず考えられないことです。また、地震や地殻変動が起きている上空で「地震雲」が発生するということですが、雲は1日で数百キロメートルから1000キロメートルは移動しているということを知らないで言っているのでしょうか?岩盤から発生する電気エネルギーがイオンを発生させ、これが大気中の水滴と結びついて、「地震雲」になるということですが、それについても疑問を持たざるを得ません。雷のように強い電流が、地面の下から発生しているというのでしょうか・・・。もし、そこに人が住んでいたら、感電死してしまいますよ。電磁波は電子レンジでも利用されていて、調理するときに、その電磁波が出ています。電子レンジの中に金属を入れると火花が飛びます(実際にはやらないようにしましょう)が、こういう電磁波が雲に影響を及ぼしている、あるいは自然に発生しているとは、到底考えにくいのです。
A「地震雲」と地震発生までのインターバル
 また、「地震雲」は、同じ所に留まると言われますが、後に書いているように、2、3日も同じ所に留まっていることはありません。独立峰の山頂付近に発生する暈雲や、高い山などの風下に発生するつるし雲は、長らく同じ位置に留まっていることがあります。しかし、これらの雲とて、絶えず形を変えながら動いています。一見、留まっているように見えますが、よく観察すると、雲は風上から風下に向かって流れるように動いているのです。
B後付けでは・・・
 よく、大きな地震が発生した後に、「いついつ地震雲が出ていたから地震が起きた。」とか、「そう言えば、数日前に不気味な雲が出ていた。」などと言うことがあります。これが、「後付け」と呼ばれるものです。そういう、後付けの情報が出て、2、3日後とか2、3週間後に地震が起きていたということも珍しくありません。「地震雲」は、地震発生が事前に予知できてこそ、その価値があるものなのです。しかし、「地震雲」発生から実際に地震が起きるまでに、こんなにもインターバルがあっては(また、時間差の幅があっては)意味がありません。
C「3.11」以降・・・
また、「3.11」以降、余震が多発しています。調べてみると、2010年と2011年とで比較した場合、強い地震と中規模の地震では、2011年の方が3倍から5倍多くなっているということです。(このことについては、巻頭付近にリンクしてある気象庁のページを参照してください。)その前後1年間で、雲の出かたに変化があった(「地震雲」が多く発生するようになった)のでしょうか? もし、そうだとするなら教えていただきたいものです。
D空に出ている雲は、すべて「地震雲」?!
 
逆説的な言い方になりますが、空に出ている雲は、すべて「地震雲」だと言うことができます。日本は地震大国です。有感・無感を問わず、どこかで毎日のように地震が発生しいています。(同様に、気象庁のページをご覧ください。)だから。空に出ている雲は、すべて「地震雲」だということができます。 しかし、それでは、何ら意味がないですよね・・・。


4.それでも、「地震雲」があると信じる方へ・・・

 北國新聞社から、「わかりやすい地震雲本」が出版されています。著者は、25年間にわたって、「地震雲」について研究され、そのノウハウを公開されています。私も、読んでみましたが、そこに掲載されている「地震雲」の多くは、気象学上存在するものです。また、因果関係などを詳しく解説されています。信じるか信じないかは、読者の判断に委ねることとします。
 ※上出孝之著「わかりやすい地震雲の本」北國新聞社刊 ISBN-8330-1432-7 C0044
 さらに、ネット上で、「地震雲」について掲載されているページもたくさんありますので、ご自身で見つけてみてください。


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